はじめに
結局買うのも使うのもあなたなので,最終的には自分で決めて下さい.本記事はイチ意見としてお受け取り下さい.
また,Raspberry Pi(以下 RPi)のネガキャンみたいになってしまいますが,私は別に RPi 嫌いじゃないですし下げる意図はありません.
ことの発端
Twitter を眺めてたら,こんなツイートが流れてきました.
Raspberry Piをサーバーとして使うメリットはたくさんあります。
— むらさん(Murasan) (@murasametech) 2025年5月18日
まず、価格が安く、電気代もほとんどかからないので常時稼働にもぴったり。静音性も高く、自宅でも気軽にサーバー運用ができます。… pic.twitter.com/F7ZdsmQ92U
曰く,自宅鯖に RPi 良いよと.
私は強い違和感を覚えたので上記ツイートを引用しつつツッコミを入れました.それが以下.
価格が安いはやや疑問だぞ......
— はるさめ🎥 (@HarusameTech) 2025年5月18日
最近の RPi 高いじゃないか......
あのフォームファクタないしはエコシステムであることのメリットが一つも挙げられてないので,それって N100 / 150 あたりのミニ PC でよくないすか.と思っちゃうな.寧ろそっちの方が扱いやすいとすら思う. https://t.co/JGRATdcqaq
詳しくはツリーを見て下さい.まぁ長いので,時間があるときにでも(と思ったけどこの記事読んでる時点で時間はあるか.)
ツイートだと一覧性あんまよくない気がしたのと編集できないので,ブログ記事としてまとめておこうと思い立ったわけです.
要するにこういうこと
用途の主語を考えましょう.本当に RPi で良いんでしょうか? もっといい選択肢あるんじゃないですか?
ツイートへの反駁
さぁて本題です.
件のツイートでは,こうありました.
まず、価格が安く、電気代もほとんどかからないので常時稼働にもぴったり。静音性も高く、自宅でも気軽にサーバー運用ができます。
主に初期投資であるところの価格と,維持費であるところの電気代の面でメリットがあるという主張です.本当なのか,一つづつ見ていきましょう.
価格
各世代の RAM 容量別の価格を図表でまとめるなんてやってられないのでやりませんが,少なくとも断言できるのは高価格化の一途を辿っているということです.もちろんこれは性能向上に依る所が大きいでしょう.
3B+ と 5B で比較してみましょう.RAM 容量が違うので単純に比べれるものではありませんが,3B+ は 1GB モデルが秋月電子価格(本稿執筆時点)で 6,980 円.対して 5B は 4GB モデルが 2 倍近い 12,800 円で,16GB モデルに至っては 3 倍以上となる 22,440 円と,かなり高価なシロモノに.
そしてこれは本体だけの価格です.動かそうと思ったら最低限 microSD カードと電源アダプタは必要になります.そして,大体の場合ケースと冷却パーツも買うことになるでしょう.microSD カードをストレージに使うのが嫌な場合 SSD を外付けする部品を買う必要があります.これは PCIe 接続をする場合と USB 接続をする場合とに分けられますが,いずれにせよ追加の出費です.
構成によって価格が変わるので雑な見積もりしかできませんが,まぁ 5,000 ~ 10,000 円くらい追加になると考えられるでしょう.この数値に明確な根拠があるわけではないですが,概ねこの範囲に収まると思います.
これって本当に安いのでしょうか?
・・・ということを論ずるには比較相手が必要になります.比較対象自体は何でもいいとは思いますが,ここではよく引き合いに出される N100 搭載ミニ PC を例に挙げましょう.以後,単に「ミニ PC」といいますが,「N100 搭載ミニ PC」のことを指しているものとご理解下さい.また,製品によっては N150 だったり N95 だったり N97 だったりしますが,どれも誤差なので同じものとして扱い,総称して N100 とします.
Amazon で雑に「N100 ミニPC」などとして調べてみると,結構色々出てきます.ですが,大体 2 万円代から 3 万円代の範囲の価格設定です.メモリ容量やストレージ容量などの違いによって多少前後しますが,まぁ 3 万円前後と言えましょう.
一例として,私が持っているものの現時点での Amazon 価格は 25,599 円でした.ちなみに 8GB / 256GB の構成です.これを比較対象にしてみましょう.
比較相手の用意はできたので,RPi 側もそれに合わせて数字を出す必要があります.ここでは,大きく 2 つのパターンで試算してみることとします.
パターン A は,ストレージに microSD カードを使用する場合,パターン B は,ストレージに外付け SSD を使う場合です.そして,ストレージを外付けする方法には RPi 5 から追加された PCIe 接続と,従来から使える USB 接続の 2 パターンがあるので,それぞれパターン B1 とパターン B2 としてみましょうか.比較対象であるミニ PC も合わせて合計 4 パターンですね.
共通項
本体である RPi 5 8GB とヒートシンク,ケース,電源アダプタの 4 点はパターン A / B1 / B2 で共通なので,ここで価格を調べておきます.
いつどこから買うかで多少価格が前後しますが,ここでは秋月電子通販での販売価格を採用します.
調べた結果は以下の通りでした.
| 要素 | 価格 | 販売コード |
|---|---|---|
| RPi 5 8GB | 14,960 円 | 129326 |
| ヒートシンク | 900 円 | 129327 |
| ケース(黒) | 1,800 円 | 129329 |
| 電源アダプタ | 2,750 円 | 130328 |
合計金額 20,410 円也.
パターン A
パターン B との違いはストレージが最小限かつ Raspberry Pi 財団が想定しているであろう使い方で,microSD カードを使います.これが最も安く済む構成でしょう.(性能は犠牲になりますが)
SD カードの転送速度に関連する規格はかなり乱立しており,どれを見て選べばいいのかだいぶわかりにくいという有り様です.なので,ここではあまり深く考えず,安すぎないモノを選ぶことにしました.
今回は SanDisk の 256GB の製品にしましょう.お値段 4,320 円也.
パターン B1
RPi 5 でのアップデートの一つに PCIe のサポートがあります.PCIe 2.0 x1 を利用することができ,これを使わない手はありません.5GT/s と現代の感覚からすれば遅く見えますが,SDIO なんて比較にならないくらいの帯域はあります.
これを使う場合は専用の HAT と PCIe 接続の M.2 SSD が必要になるわけですが,特に SSD はピンキリなので,ミドルグレードっぽいものにしておきましょう.
して,どれを選ぶかが大事な訳ですが,なんとなく有名どころっぽいものを選ぶことにします.HAT の方は GeekPi なるところのもので 3,999 円,SSD は Silicon Power の Gen3 SSD で 256GB 3,280 円.合わせて 7,279 円.
パターン B2
RPi 4 以前のモデルでも有効な方法として,USB ポートを使うというやり方があります.USB 接続の SSD はそれなりに出ており,なおかつ刺すだけでいいというお手軽さも相まって最もシンプルにボトルネックを解消できる選択となります.
ここで気をつけるべきは USB メモリではなく USB SSD を使うという点です.USB メモリは安価ですが,繰り返しの書き込みに弱く,速度もあまり出ません.対して,USB SSD は一般的な PC 内蔵 SSD(M.2 SSD や SATA SSD など)とほぼ中身同じで I/F が USB というだけなので,それなりに耐久性がありそれなりに速度が出ます. 両者の細かい違いについてはここでは書かないので詳しく知りたい方は各々調べて下さい.
で,USB 接続の外付け SSD ケースみたいなものもあり,それを使っても良いんですが,USB メモリみたいな見た目のめっちゃ小さい外付け SSD が Buffalo から発売されているので,省スペース化の観点から,これを選びました.256GB でお値段 8,980 円也.
いざ比較
これにて出揃ったので,いざ比較と洒落込みましょうか.てことで表にしました.
| 選択肢 | 合計金額 | ミニ PC との差 |
|---|---|---|
| ミニ PC | 25,599 円 | |
| パターン A | 24,730 円 | -869 円 |
| パターン B1 | 27,689 円 | +2,090 円 |
| パターン B2 | 29,390 円 | +3,791 円 |
これを見てどう思うかは人それぞれですが,私は特別「安い」とは言えないなと思いました.
RPi は安いから良いよと言うのは説得力がないですね.だってその値段でミニ PC 買えるんだもん.
しかも,値段で張り合えているのは一番安い構成になった microSD カードを使うもので,これはストレージへのアクセス速度と安定性・信頼性で大きく劣る選択です.そこを改善しようとしたらむしろ割高ということになります.なので,価格優位性はないです.それどころか不利とすら言えましょう.
ただ,絶対的な金額としてはいずれも安いです.3 万出せばお釣りが来る値段でそれなりのコンピュータが買えると考えればかなりお買い得です.なので「安いという訴求は間違っていない」という反論もあるでしょう.ですが,これも主張としては弱いです.
同じような用途で使えて大きな価格差がない 2 つの製品があって,その片方だけを取り出して「安くてお手軽だからオススメだよ☆」というのは偏っていると言わざるを得ないでしょう.今回の場合であれば,安くてお手軽なコンピュータを提案するというものになりましょうが,価格面でのメリットを訴求するなら RPi とミニ PC 両方を提示するのが筋です.片方を選ぶなら,それについて納得できる理由を述べるべきです.が,件のツイートでは,特に RPi でないといけないという理由があるわけでもないのに RPi しか挙げられていません.RPi を推したいという意図が先にあって,それに対して後から理由付けしていると評せざるを得ません.
電気代
電気代を比べるためには消費電力を比較するのが手っ取り早いでしょう.なので,この章ではどれだけ電気を食うのかを見ていこうと思います.
ですが,私は RPi 5 を持っていないので実測比較ができません.なのでスペックシートやレポート記事などを参照して,これを論拠とします.また,CPU が食う電力だけでなく RAM やストレージ,その他接続機器が食う分も当然無視できないですが,そこはいい感じにします.
搭載 CPU の話
RPi 5 に積まれている CPU,SoC と言った方が正しいらしいですが,Broadcom の BCM2712 が使われています.コアは Arm Cortex A74 2.4GHz が 4 コアだそうです.まぁそこはどうでもいいや.
対してミニ PC は言わずもがな Intel N100 で,Alder Lake-N 3.4GHz が 4 コアです.
それぞれの TDP を雑に調べてみました.データシートが見つかれば良かったんですが,軽く調べたくらいでは見つかりませんでした.二次情報となってしまい申し訳ないですが,BCM2712 の TDP は 12W であるという情報が散見されたのでとりあえずここでは 12W という数字を採用することとしましょう.
対して N100 の場合は Intel の公式サイトにちゃんと記載があり,そこには 6W とある...んですが,実際に 6Wで動いているかというと否.手元の N100 搭載ノートパソコンの BIOS の設定を見た感じ,12W くらいは食わせていそうだったので,これも 12W でしょう.
よって CPU 単体での消費電力に優位性はあんまりなさそうですね.
システム全体での話
システム全体でどれだけ電気食うのかは実際に調べるのが確実なんですが,先述の通り私は RPi 5 を持ってません.ミニ PC は沢山あるんですけどねぇ・・・
なので,電源アダプタの能力から推定してみましょう.
RPi 5 用の電源として公式で用意されているものは 5.1V 5A の USB PD 電源で,27W 定格になっています.実際の消費電力は半分から 2/3 くらいの電力でしょう.
ミニ PC の場合,製品によりますが,私の手元にあるのは 12V 3A なので 36W です.実際の電力はこの半分くらいになると思います.(というのも,大体この手の製品は汎用品の設計を流用することが多いのです.12V 3A の設計のものはこの辺の消費電力のものにはよく使われ,とりあえず使われているような側面もあり,結果として結構余裕を持っている感じになっています.)
この比較方法はかなりいい加減なものなのであんまし参考にならないですが,電源アダプタの供給能力に大きな差がないことから,実際の消費電力も大きくは変わらないと想像することができましょう.ま,だいたい同じようなものと考えていいでしょう.
つまり・・・?
消費電力すなわち電気代に大差ないということは,どちらも電気代の面で優位性はないということになります.
ですが,いずれにせよどちらも消費電力が少なめなので,「電気代もほとんどかからない」という元ツイートの主張はそこそこ正しいです.が,ここで言いたいのは「大体その通りだけどミニ PC も変わらんからな」ということです.
「そこそこ正しい」と言ったのは,「ほとんどかからない」というのはさすがに言い過ぎだと思ったからです.
実際の消費電力は CPU の負荷率に大きく依存します.なので,多めに見積もって大体常時 20W 食っていると仮定しての計算ですが,ざっくり年間 6,000 円くらいです.月あたり 500 円,ほとんどかからないとは言えないんじゃないかなぁ? ただ,とはいえ特別高いというほどでもないので,常時稼働にぴったりというのは全くもってその通り.だけどそれはミニ PC も同じなので訴求力には乏しいですね.
まとめると
件のツイートで挙げられていたメリット,「価格」「電気代」の面でミニ PC を対抗馬として比較検討してみた訳ですが,特段 RPi が優れている訳ではないと分かりました.
価格に大きな差がないどころか場合によっては割高で,電気代に至ってはいずれも誤差.この時点では若干ミニ PC がリードしています.
ですが,これはあくまでも価格と電気代のみにフォーカスした場合の話です.実際に使う上で比較・考慮すべきところはこれだけではありません.これ以降は,それらについても見ていきましょう.
その他の比較項目|静音性
RPi もミニ PC もそこまで発熱がないので,必然と熱系がショボくてもなんとかなります.RPi 5 のアクティブクーラの画像を見て欲しいんですが,「え,こんなんでいいの」と思うレベルのシロモノです.
故に,こと静音性に於いてはどちらも気にしなくていいレベルだと思います.が,敢えて差をつけるなら,ミニ PC に軍配が上がると思います.理由はファンの径.
まぁ,行っても僅差でしょう.ちなみに,我が家にあるミニ PC はめっちゃ静かです.かなり耳を近づけないと聞こえません.
その他の比較項目|信頼性とお手軽さ
RPi は基本的に microSD カードをブートディスクとして使っています.ですが,これはあまりにも信頼性に掛ける構成です.故に多くのユーザが SSD を外付けして,そちらから起動しています.
なぜ信頼性に掛けるのかと言えば,それは microSD カード自体がカスだからということに他なりません.言い過ぎのように見えるかもしれませんが事実です.
もちろん用途次第ではそこまででもないです.例えば,本来の用途であるカメラに突っ込んで撮影した写真や動画を保存する用途で使えばまだマシです.それでも故障リスクはあるのでミドルグレード以上や業務用途向けの機種はデュアルスロットが普通になっている訳ですが.
ただ,頻繁に読み書きを繰り返すと速攻で劣化するので,突然死のリスクが高い訳です.
この問題は SSD を外付けしてやれば解決は出来るわけですが,手間が掛かりますね.そこまでして RPi を使う意味は何なんでしょうか.
そして思い返せばこいつ,基板丸出しなんですよね.もちろん,はんだ付け部分も丸出し.
ケースは売ってますが別で買う必要があり,粗悪なものこそそうそうないものの,とはいえせいぜい出来の良いオモチャくらいのクオリティが大半でしょう.普通に使うには十分ではありますが,自分の用途や好みなどに合うものを探して買ってくる必要があります.最悪ケースなしでも動かす分には問題ないですが,ショートする危険性があって大変よろしくない.
その面ではミニ PC の方が圧倒的ですね.ストレージも元から M.2 タイプのものが内蔵されているので別で何かを買う必要はない.ちゃんとした外装に覆われているのでショートさせる心配もない.気兼ねなく使えます.
その他の比較項目|CPU アーキテクチャ
よく言われる話ですが,RPi とミニ PC では CPU のアーキテクチャ(ISA;命令セットアーキテクチャ)が異なります.RPi は ARM でミニ PC は x64 と呼ばれますね.もうちょい掘り下げると ARM は ARM でも BCM2712 には Cortex-A76 が採用されていて,ARMv8.2 という設計です.対する N100 は Alder Lake-N で,自作 er に馴染み深い言い方だと Intel の第 12 世代 Core シリーズでしょうか.(P と E とありますがもちろん E ですね.)
アーキテクチャが異なるということは,実行されるバイナリも異なるということを意味します.そもそも x64 は CISC 系,ARM は RISC 系と,設計思想から異なるので当然です.(厳密な話をすると ARM は RISC 系ではあるものの CISC のような特徴も持っているため,全く異なると言ってしまうとやや言い過ぎです.とはいえかなり異なるというのは事実です.)(そもそも ARM の R は RISC の R ですし.)
「ソフトウェア資産」という言葉がありますが,これが活かせるのはバイナリレベルでの互換性がある場合に限られます.現代の家庭向けコンピュータはほとんど x64 ですが,大昔にビルドされた謎のバイナリが今のパソコンでも動かせたりするのはこれのお陰です. また,同じアーキテクチャであることが前提となっているならば,ソフトウェアの配布と利用も容易に,かつ効率的になります.なぜなら,ビルドするのは一度だけでよく,使う側はただそれを実行させるだけだからです.
裏を返せば,異なるアーキテクチャを採用していると,この資産を活かせない訳です.
ソースが公開されていればまだツールチェインを用意して自前でビルドさせればいいでしょう.ですが,バイナリだけがあってソースが公開されていないと,既にあるバイナリが対応しているアーキテクチャでしか活かすことができません.これはもったいない.
そういった意味で,x64 を採用していることはかなりのアドバンテージとなります.大抵のソフトウェアはまず動くし,情報量も過剰なほどあり,開発も活発です.
対して ARM はどうでしょう.最近は(それこそ Raspberry Pi の隆盛により)マシになってきた感はありつつも,それでもやはり x64 には遠く及びません.
このアーキテクチャの違いというのは時としてかなり大きな問題になります.例えば,どこかで見知った OS をインストールして動かしてみたいとしましょう.x64 であれば間違いなくイメージが提供されていますが,ARM はかならずしもそうとは言えません.この時点でかなり気軽さに違いが現れてますね.
その他の比較項目|メモリ
あまり気にしている人がいないように思えるのですが,メモリの違いも気にすべきです.
RPi 5 は 2GB から 16GB までの容量で展開されています.出た当初は 4GB か 8GB だった記憶なのですが,その上と下も増えたみたいですね.
対するミニ PC は 8GB が 16GB が一般的です.そして Intel の公式リファレンスにも 16GB と記載されています.が,実際は 32GB 乗せることも可能です.我が家の 4 ノードのうち 2 ノードは 32GB 積んでいます.
安さ優先で 2GB のモデルを買ったとして,その 2GB で何ができるんでしょうか? Linux は軽量とはいえ,OS によっては起動するだけで 700MB とか食います.残りは 1GB と少し.あまり余裕がありませんね.最大容量の 16GB モデルを買えばある程度解決しますが,今度は高くなる・・・
ミニ PC も基本は 16GB ですが,足りなくなれば自作 PC など,より潤沢にメモリを積めるマシンに載せ替えてしまえば解決します.コンシューマでも 192GB とか載るので大分快適です.つまり,ステップアップの余地があるんですね.それも大幅に.
コンピュータ遊びの入口として何かを提案するなら,ある程度は将来性も見据えるべきでしょう.となると,RPi はどうなんですかね?
ここでは容量の違いしか見ませんでしたが,帯域も異なります.容量ほどのインパクトはないものの,帯域はあるに越したことはないです.
まとめ②と私の考え
比較項目をちょいと増やしました.ここまで来るともう一般にどちらを選ぶべきか明白でしょう.
コンピューティングリソースとして使うなら,明らかにミニ PC の方が向いています.
というか,みんな計算機としてしか使わないのだから,そもそも RPi である意味がないのです.
アーキテクチャ的に不利というのもありつつ,将来性も拡張性も乏しい RPi を無理して使うのはヘンでしょう.
故に,私は基本的にミニ PC を推しています.シンプルなのでね.
駄文
大元のツイートの主張の最大の欠陥,お分かりですかね.
それは,「Raspberry Pi である必要がない」に尽きます.
最初の行はこうでした.
Raspberry Piをサーバーとして使うメリットはたくさんあります。
その後に「メリット」が挙げられていた訳ですが.そのメリットとやらには RPi である必要性を感じる文言が何一つとしてありませんでしたね.それについてはさんざん上で触れたのでもう書きませんが,これでは「ミニ PC でよくない?」に反論できません.
なので,主語を RPi にしたいなら,それでないといけない理由,あるいはそれであるべき理由をせめて一つくらいは入れるべきなのですよね.例えば「GPIO が使える」など.まぁそれでも弱いと思いますがないよりは・・・
ともかく,RPi に限定する必要も説得力もないのに何故か RPi を主語に据えている訳です.これは「RPi を推したいという意図がある」と思っちゃいますよね.私はイジワルな人間なのでそう受け取りました.
どうせみんな計算機としてしか使わないじゃん.それなら RPi である必要ないじゃん.というかそれ RPi のフィールドじゃないじゃん.
なぜこうなってしまったか
数年前まで時を戻してみましょう.RPi 3 くらいの時代.
この時代はまだ RPi も安かったので,それこそ学生でも手が出ます.一方,その頃の PC は,まぁ程度の良いジャンク品か中古品くらいかな? それでも 1 万はしたでしょう.
RPi 3 は RAM が 1GB ではあるものの,7 千円くらいで買えたので,まぁ許せます.本体が 7 千円で,その他に必要なモノを合わせてもせいぜい 1 万とちょっと.倍までは行かないんじゃないかな.お小遣いがあるなら数ヶ月貯めれば手が届くお値段ですし,お年玉を使って良いとなれば全然買えます.故に高校生,場合によっては中学生でも買える値段です.誕生日に買ってもらうというのもアリかも?
なんにせよ,とても手が出しやすいモノだったわけですね.「RPi は安い」というのは昔は正しかったのです.その認識を今でも引きずってしまっているという問題はあると思います.今はもう RPi は安くないんだよおじいちゃん.
次はなぜ RPi が高性能化していったのかに目線を移してみましょう.
RPi の誕生当初の想定用途は主に教育の分野でした.なので安価であることがとても重要でした.
ただ,IoT の隆盛と普及により,ユーザが趣味の世界や業務開発に広がっていき,しまいには産業分野が大口顧客になってしまいました.
くら寿司が大規模に運用しているというのはよく知られた話です.
そして,ほとんどすべてのユースケースに於いて,RPi の最大の特徴であるはずの GPIO を活かしたものはありません.
元の教育向けという方面からずれ,最大のアイデンティも活かされず,みんな都合の良い計算機としてしか見ていない.そりゃこうなりますよね.
結局は計算機としてしか使われないのだから,求められるのは計算性能になります.当然です.処理が早いに越したことはないので.
そのことは当然 Raspberry Pi 財団も分かっているでしょう.大口顧客は産業分野であり,それなりに残った一般ユーザも計算力しか求めていない.となるととにかく高性能にしていくしかなくなってしまいます.
教育的価値がなくなってしまったのは非常に残念です.辛うじて RPi 400 が悪くない選択肢として残っているだけマシですかね.
(余談ですが,RPi 400 は 10 台ほど導入したことがあります.悪くはないですが,う~ん・・・)
Raspberry Pi が向いている用途を考える
と,現状を憂いても何も変わらないので,RPi が活きる用途を考えてみましょう.
RPi だからこそ,となる用途です.
もちろん GPIO の活用はマストでしょう.あれこそが RPi を RPi たらしめている要素です.
そうなると何かしらのセンサやモジュールを繋いで使うという電子工作的な用途が主になってきます.
例えば IoT 技術を活かすなどは良い路線でしょう.
IoT 方面での使い道の例
例えばハウス栽培をしている作物があって,ハウス内の気温湿度のモニタリングや土壌の水分量・酸性度合いの監視,水やり・肥料投与の自動化をするなどには使えると思います.
PoE で電源も送ってしまえるので,配線は LAN ケーブルだけで済みます.
ただ,これだけなら別に ESP32 でも実現できるので,もう少し高度なことにも取り組んでみることとしましょう.
MIPI インターフェースがあるのでカメラを付けてみましょうか.あるいは USB 接続のWeb カメラでも良いでしょう.ありがたいことに最近の RPi はそれなりに性能があるので OpenCV くらい動くでしょう.すると画像処理が使えますね.
カメラ配置を工夫すれば,作物の生育状況の推定もできます.収穫時期と判断したら通知を発行するようにすれば,毎日見回りに行く手間も省けます.
割と理想論的な話もありますが(例えば生育状況を推定するとしてどれくらいの精度が出るのかは要検証),こういった分野であれば RPi である意味合いがかなり出てきます.
本気でやるならカメラだけ配置して撮影データをサーバに送り,ちゃんとした GPU を積んだ強いマシンでゴリゴリ処理させるくらいやるのが妥当ですが,導入コストがネックとなり,企業主体でやらないと導入ができません.RPi にカメラとセンサを付けてばら撒くくらいなら,規模次第ですが 数十万から数百万程度あればシステムを組めると思います.やはり産業分野になってしまいますが,RPi が活きる道は結局ここなのです.
思想
私としては,なんであんなにズレた発言が現時点で 500 fav 得られているのかが理解できません.
一切の論理的整合性がなく,偏った主張なのに,一定数賛同する人がいる.理解に苦しみます.
そしてこれはある種の偏見ですが,この手の主張をする人々の集合と Python を信奉している人々の集合がかなり重なっている気がするのです.私は Python 嫌いなのでこれも偏った見方ですが,なぜか Python が一番優れた言語だと思い込んでいる人は得てして Raspberry Pi も持ち上げがちという認識があります.
用途の主語とは
めっちゃ最初の方で,「用途の主語を考えましょう」と書きました.そこの回収をここでします.
ここでいう用途の主語とは,例えば「やりたいこと」などです.まず要件があり,それに合わせて選定をするのが通例だと思いますが,そこで重要になる要件にあたります.
もしそれが「RPi が余っているから活かしたい」なのであれば RPi でやる意味は多少あります.
ただ,それは時としてやりたいことの足かせになることがあるので気をつけましょう.